2017/08 ≪  2017/09 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2017/10
『堀辰雄 その愛と死』
2017/09/29(Fri)
【書名】堀辰雄 その愛と死
【シリーズ名】旺文社文庫 200―2
【発行日】昭和五九(一九八四)年一月二五日
【発行所】旺文社
【体裁】文庫判、カバー装。カラー口絵(アート紙)四頁。カバー写真(浄瑠璃寺)と口絵のカラー写真・佐藤英世。本文イラスト地図・橋本金夢。資料図版多数収録。
【頁数】二八二頁
【定価】三八〇円
【国際標準図書番号】ISBN4-01-061400-5
【目次・内容】
PROLOGUE 信濃追分の夏―追想の堀辰雄
Ⅰ 生の意識―生涯のフィルム
   軽井沢風景   幼年時代―下町の父子像
   麦藁帽子の季節   下町育ち   室生犀星
Ⅱ 作家の出発
   震わが母を見わけぬうらみかな   母、志気の死
   軽井沢・文学サロン   作家の出発
間奏曲その1 あひ見ざりせは…… ―芥川龍之介の恋
   おもかげの芥川龍之介   村松みね子はきのふ来にげり
   野に架る虹
間奏曲その2 『聖家族』まで―芥川龍之介の死
   現し身を嘆ける   再び夏に   秋風高原
Ⅲ 詩的饗宴の季節
   天使たちが……   浅草狂詩曲
Ⅳ 絵のなかの少女
   「毛の帽子」の少女   心理主義の快楽―堀辰雄の虚実
   若葉の輝き
Ⅴ 風立ちぬ Le vent lēve,―
   美しい村   アカシアの並木
   補説・青春の書―『美しい村』『風立ちぬ』
Ⅵ 幸福の谷―愛の始め・愛の終り
   短夜の看とり給ふも……   富士見高原にて
   桜沢越冬―鎮魂歌
Ⅶ 四葉のクローバー
   牧歌   軽井沢山荘の初夏   折口信夫・古典への愛
Ⅷ 旅への誘い
   古都の青葉   静かなる意志   旅への誘い
Ⅸ 大和路への旅
   古寺幻想   佐保道の秋   妻への手紙
   秋篠寺・ある深淵   補説・大和しうるはし
Ⅹ 花あしび
   続・妻への手紙   木曾路の雪   浄瑠璃寺の春
epilogue
あとがき
【解題】
 文庫版『立原道造 忘れがたみ』に続く旺文社文庫のための作家評伝であるが、こちらは新稿による書き下ろしである。
「文庫本の書き下ろしということは類例の少ないことだが、堀辰雄を文庫に入れるならば、既刊の旧著の論文を再構成することをしたくなかった。もう一度、新しく初めから、この作家の生涯をたどり直してみたいと思った」とあとがきにある通り、例えば「生の意識―生涯のフィルム」という章の見出しは『評伝 堀辰雄』(昭和五三年六月刊)にもあるが、内容は大幅に異なっている。 

 堀辰雄が惹かれた二上山も見た。山の辺の道も辿った。佐保路、奈良坂を越えて浄瑠璃寺も。あの病弱な堀辰雄がこんなに歩いたかと、いままで、数度、奈良の古寺を訪ねながら、迂闇だった距離感を改めて思い知った。現代の車文化が即物的、実感的な作家像を見落させていたことが分かった。
 当麻寺の崩れかけた経堂の前に日本最古の石灯籠があり、東西両塔が杉木立の上に聳びえ当間寺駅からここまでもやはりかなりの道のりだった。そういう発見の驚きとともに、堀辰雄のたどった場所に立つと、その視界に収まる風景は観光案内的な奈良、大和の美しさではない、ほんものの、それこそ原質といっていい風景を繰り広げてくれた。
 それが、堀辰雄という作家をもう一度、初めから考え直したい大きな動機となった。  ――「あとがき」(一九八四年一月)


 先に出た同文庫の『立原道造 忘れがたみ』の姉妹編というべきもので、ドキュメント風に堀辰雄の生涯が描かれている。この二冊は文庫本(しかも当時メジャーな出版社があまり出さないような隠れた名著をたくさん出していた今はなき旺文社文庫ということもあり)、学生でも手に取りやすく、一九八〇年代中頃の特に若い読者に相当な影響を与えた書だと思われる。清冽な文学の世界への導入として、作家・詩人の魅力を増幅させ、文学的ロマンに誘った。なかには悪酔いする者もいたかもしれない。この二冊と『伊東静雄 孤高の抒情詩人』と『文壇資料 軽井澤』の四冊を併せて文庫で復刻してくれないかと切に願う。
☆西山蔵書 ◎五十嵐蔵書
スポンサーサイト
この記事のURL | 1980年代の著書 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『文学碑のある風景』
2017/09/19(Tue)
【書名】文学碑のある風景 詩の心、詩の風土
【発行日】昭和五八(一九八三)年一二月二〇日
【発行所】実業之日本社
【体裁】本文新書判、丸背厚表紙(新書判よりやや大きめ)、コート紙カバー、帯付。口絵写真・アート紙一頁(三好達治「春の岬」詩碑)。装幀・安彦勝博。
【頁数】写真提供者一覧含めて二六〇頁。
【定価】一〇〇〇円
【目次・内容】
文学碑の旅へ
  風景との遭遇
  旅への誘い
  発見の喜び
川端康成「国しのびの歌」碑   奈良県桜井桧原井寺池畔
山部赤人「津田の細江」歌碑   姫路市飾磨区溝、思案橋際
中山道碓井峠の万葉歌碑     長野県軽井沢町旧碓氷峠展望台
柿本人麻呂「遊女の祈り」古歌碑 東京都台東区浅草神社境内
和泉式部「薄墨ざくら」歌碑   福島県石川町小和清水
芭蕉『奥の細道』文学碑     福島県白河市旗宿
其角「雨乞い」句碑       東京都墨田区向島二丁目三囲神社境内
大和田建樹『鉄道唱歌』詞碑   東京都港区新橋二丁目国鉄新橋駅舎
樋口一葉『たけくらべ』文学碑  東京都台東区竜泉寺町一葉記念館
森鷗外小倉旧居と文学碑     北九州市小倉鍛冶町
正岡子規法隆寺句碑       奈良市五条町法隆寺境内
伊藤左千夫『野菊の墓』文学碑  千葉県松戸市西蓮寺境内
泉鏡花『婦系図』ゆかりの筆塚  東京都文京区本郷湯島天神境内
島崎藤村『夜明け前』文学碑   長野県木曽郡福島町大手町
土井晩翠「荒城の月」詩碑    宮城県仙台市青葉城址
与謝野晶子「海こひし」歌碑   大阪府堺市甲斐町一四一
若山牧水記念館と「望郷」歌碑  宮崎県東臼杵郡東郷町坪谷
吉井勇祇園歌碑         京都市東山区祇園町白川畔
北原白秋「帰去来」詩碑     福岡県柳川市矢留小学校前白秋詩碑苑
石川啄木北上川畔歌碑      岩手県岩手郡玉川村渋民鶴塚
石川啄木浅草等光寺歌碑     東京都台東区西浅草等光寺境内
夏目漱石鴨川句碑        京都市中京区御池大橋際
高村光太郎『智恵子抄』詩碑   福島県二本松市二本松城址
有島武郎文学碑         長野県軽井沢町三笠
永井荷風「震災」詩碑      東京都荒川区南千住二浄閑寺境内
萩原朔太郎「帰郷」詩碑     群馬県前橋市敷島町敷島公園
大手拓次「川に鳴る鐘」詩碑   群馬県安中市磯部温泉碓氷川畔
室生犀星「あんず」詩碑     石川県金沢市中川除町犀川畔
佐藤春夫「望郷五月歌」詩碑   和歌山県新宮市熊野速玉神社
会津八一唐招提寺歌碑      奈良県五条町唐招提寺金堂左側
西条八十「銀座の柳」詞碑    東京都中央区銀座八丁目新橋際
大仏次郎記念館         神奈川県横浜市中区山手町
伊藤整「海の捨子」詩碑     北海道小樽市塩谷ゴロタの丘
宮沢賢治「雨ニモマケズ」詩碑  岩手県花巻市下根子片桜
林扶美子「花のいのちは」詩碑  鹿児島市桜島町古里温泉
小林多喜二望郷の文学碑     北海道小樽市旭山展望台
三好達治「春の岬」詩碑     福井県坂井郡三国町東尋坊海岸
中原中也「帰郷」詩碑      山口市湯田温泉井上公園
立原道造「アダジオ」詩碑    岩手県盛岡市愛宕山中腹
伊東静雄「曠野の歌」詩碑    大阪市住吉区住吉高校
亀井勝一郎文学碑        奈良市西の京薬師寺大宝蔵殿前
太宰治「不死鳥」文学碑     青森県北津軽郡金木町芦野公園
原民喜「幻の花」詩碑      広島市大手町原爆ドーム前
峠三吉原爆詩碑         広島市広島平和記念公園内
井上靖「千本浜」詩砕      静岡県沼津市千本松原
 全国主要文学碑一覧
 あとがき――取材を終えて
 〈写真提供〉
【解題】
 一篇(一文学碑)につき原稿用紙三枚ほどのエッセイと写真で綴る文学碑への旅。本のスタイルとして、のちの『百観音巡礼』『旬の菜時記』『花暦十二ヶ月』『花とことばの文化誌』に続く瀟洒な小型本エッセイ集の嚆矢である。
「北は北海道の啄木から南は鹿児島の林扶美子、時代的には万葉から井上靖まで、代表的な文学碑を訪ね、碑文の背景と作家の肖像を活写した文学風土記」と帯にあるように、単なる文学碑案内というのではなく、作家・作品の文学地誌を洗い直す文芸批評になっている。かつ随筆として軽快に読め、折に触れて頁を繙くの適している。
 決められた枚教内にぴたりと文章を嵌め込む手腕はさすがである。また、取材の仕方や写真の撮り方まで紹介されていて、これは大いに参考になる。文学のフィールドワーク入門として読めるわけだ。
 実際、昭和五九年の明大での「詩歌研究」は本書をテキストに、夏休みの課題は、学生の郷里や身近な文学碑を訪ねて写真と文章でリポートするというものであった。(この時二年生だった私は、語学の必修科目が重なっていてこの授業を履修することができず、三十年以上たった今でも残念に思っている)。
「あとがき」に、「ここ二、三年、二つの新聞と一つの雑誌に文学碑のエッセイを書き続けさせることになって」、「そのうちから約三分の一を選び、地域や時代を考慮に入れて一冊にまとめることにした」とある。ということはほかにもまだ原稿が二冊分あるということで、初出を探索したいものである。

 文学碑の旅はいつも新しい歌枕を訪ねる旅であり、文学の風景との出会いであった。(――「文学碑の旅へ」冒頭)


 ノートとカメラを片手に旅する先生の姿が目に浮かぶような本である。――それにしてもよくぞここまで巡ったものである。
☆西山蔵書 ◎五十嵐蔵書
この記事のURL | 1980年代の著書 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
『中村真一郎とその時代』
2017/09/05(Tue)
【書名】中村真一郎とその時代
【発行日】昭和五八(一九八三)年一一月一五日
【発行所】林道舎
【体裁】四六版上製、角背コバルトブルー厚表紙、函入り、帯付。口絵アート紙二頁(中村真一郎照影/自筆原稿「立原道造」三枚・色紙一枚・「四季」第六六号と「高原」第二輯の表紙)。
【頁数】二一九頁
【定価】二〇〇〇円
【目次・内容】
Ⅰ 幻覚の饗宴
 1 幻覚の饗宴
  中村真一郎の梶井基次郎論 ボードレリアンとしての梶井基次郎
  視覚者としての文学   「桜の樹の下には」
  幻想と反世界   夢、あるいは想像力について
  (中村真一郎最初期の単行本未収録小品「窓」全文掲載)
  「死の影の下に」の意味
 2 マチネ・ポエティク
  マチネの詩   ひとつの時代   その史的位置
 3 中村真一郎の性と思想
  固有の思想   物語への憧れ
  その性描写   オンディーヌ志向
Ⅱ 作家以前の中村真一郎
 1 作家の幼年
  死の音楽   海に降る雪   心象の海   幼年
 2 青春と時代
  目覚め   父の死・青春   時代
  立原道造の死   高見順
Ⅲ 中村真一郎とその時代
 1 『恋の泉』――近代の日本と知識人
  『恋の泉』―六〇年代の文学と《性》をめぐる   風俗の最前線
  夢の構築・作家の想像力   小説の方法・小説のなかの時制
  反私小説の中の主人公、民部兼広   日本の近代と知識人
  八十年代の小説への架橋   『恋の泉』における性の思想
  筆者自身のためのモノローグ①
 2 『「雲のゆき来』をめぐる――思想としての性
  筆者自身のためのモノローグ②
  「うまく作られた不幸」に関する考察
  時間・劇中劇の問題点   メタモルフォーゼ・小説の手法
  ブルーノ・タウト   小説の魅力
  筆者自身のためのモノローグ③
  ある空想・中村真一郎研究について   思想としての「性」
 3 『四季』の意味――回帰する青春
  小説の失権時代   続・小説の失権時代
  老年という文学の主題   全体小説としての『四季』
  回帰する青春   筆者自身のためのモノローグ④
  記憶の迷路へ   私小説の中の青春
 あとがき
【解題】
 中村真一郎という作家は、近代日本文学史上最も批評しにくい作家であるとは誰もが認めざるを得ないことだろう。何より作家自身、古今東西の小説や詩歌に限らず哲学・芸術・文化に精通していて、なおかつ審美眼を具えた本当の意味での知識人であり、超一流の批評家だからである。
「一人の批評家が生涯かかって成し遂げ得るような仕事を、その第一の創造である小説を書きながら果して来ている」(Ⅲ―1)のであり、加えて自作についても、生半可な批評家ではとても太刀打ちできないような解説者となっている。文壇内・読書界の一部での中村真一郎への冷遇は、この作家に対するおそらく屈折した心理が働いていると思われる。
 そういうことを別にしても、小川和佑先生にとっては師である。論じがたいのは言うまでもない。だが、それは単に師だからという理由だけではない。それは最終章を読めば分かる。しかし、最終的な先生の「十七歳から始まる三十数年に渉った長い中村真一郎体験の到達」 (Ⅲ―3)点の如何にかかわらず、『恋の泉』『雲のゆき来』の作品論は(私が言うのは僭越だが)秀逸である。
 特筆すべきは、全篇を通じて先生の現代文学への状況論的な批判とヴィジョンが語られていることである。個人的なことになるが、本書あたりからようやく先生の新著をリアルタイムに読めるようになった私としては、この点が実にスリリングであった。
 本書刊行直前(昭和五八年八月)に行われた記念すべき第一回目の小川ゼミ合宿では、まさに「現代に文学の復権はあるか」というテーマを論じ合っていたのだった。私にとって、以後の先生の著作と大学での講義の関係は、本にすでに書かれてあることを授業で聞くのではなく、授業で聞いていたことが次の本ではこのように書かれている、ということが如実に分かるということになり、批評はおろか論文を書かない大学教授が増えている中、自分も文学の創造や批評の〈現場〉に立ち会っているというような、「生な文学」に触れているという実感が持て、たいへん貴重な体験となった。これは昨今の大学教育・機構の中では、特筆されていいことである。
☆西山蔵書 ◎五十嵐蔵書
この記事のURL | 1980年代の著書 | CM(0) | TB(0) | ▲ top
| メイン |